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秋田家庭裁判所 昭和38年(家)840号 審判 1963年10月17日

申立人 加藤一郎(仮名) 外六名

相手方 加藤カヨ(仮名) 外一名

主文

被相続人加藤甚一の遺産に属する別紙目録記載の不動産一切を申立人一郎の所有とし、昭和三〇年四月一五日に開始した相続を原因とする所有権移転登記手続をすること。

申立人一郎は相手方章に対し金六六万三、五〇〇円及びこれに対する本審判確定の翌日から年五分の割合による金員を支払うこと。

理由

(一)  相続人及び相続分

被相続人加藤甚一は、昭和三〇年四月一五日秋田市手形休下町○○番地において死亡し、相続が開始した。その相続人は申立人ら及び相手方らであつて、その身分関係は、別紙身分関係図に示すとおりである。以上は戸籍謄本の記載により明らかである。従つて、相続分は相手方カヨ三分の一、申立人一郎、同昭郎、相手方章各六分の一、申立人保、同高男、同鉄男、同俊男、同勇各三〇分の一となる。但し、本件記録添付の譲渡契約書六通及び調査の結果によれば、申立人昭郎、同保、同高男、同鉄男、同俊男及び同勇はいずれも、その相続分を申立人一郎に譲渡したことが認められるから、申立人一郎の相続分は、これを合算して二分の一となり、結局本件遺産は、申立人一郎二分の一、相手方カヨ三分の一、相手方章六分の一の割合に分割すべきものである。

(二)  遺産及びその価格

遺産は、別紙目録記載の不動産であり、その価格は、土地二〇六万九、〇〇〇円、立木五八万五、〇〇〇円、合計二六五万四、〇〇〇円となる。なお、申立人一郎提出にかかる昭和三七年一〇月一九日受付の書面中に記載されている鬼子母神一体(社を含む)は、所有者不明であつて、これを遺産と認めることはできない。(これを遺産から除外することについては、当事者双方が同意している。)

(三)  各相続人の生活状態その他の事情

相手方カヨは二二歳頃から被相続人と同棲し、事実上夫婦の関係にあつたが、長い間婚姻届をしないでおり、昭和一八年二月一〇日に婚姻届をしたのであるが、その届出前に明、キミ、敏郎、昌子の四児を生みこれを他の戸籍に入れた。上記四名は真実は被相続人の子であるとしても、認知がない以上、法律上の親子関係は発生しないから、この事実を本件遺産分割において考慮することはできない。なお、相手方カヨは現在上記敏郎(国鉄職員)と同居し、その世話になつている。

相手方章は、秋田市○○小学校の教員をしていて月収は手取約二万八、〇〇〇円である。

申立人一郎は呉服店の雑役夫をしていたが、高血圧症にかかり、勤務を止め昭和三七年七月二二日妻が病死したので、県営住宅に一人で暮し、収入もなく、近所に住む長女夫婦の世話になつている状態である。

(四)  分割に関する調停前の合意の有無

相手方章及び相手方カヨ復代理人船田敏郎は、昭和三二年九月四日に相手方カヨ、同章、申立人一郎及び親族数名が集り、相手方カヨの生存中は、前記帝石の借地料全部をカヨの収入とする等の合意が成立し、誓約書を作成したと述べているが、提出された誓約書には関係者の署名押印もないのみならず申立人一郎の供述と対比して考えると、到底かかる合意が成立したものとは認められない。

(五)  遺産の法定事実とその処分

本件遺産中不動産の相当部分は、帝国石油株式会社に賃貸され、昭和三一年度から昭和三七年度にいたる賃料は合計一九六万六、四〇七円に達した。この内から固定資産税合計七万二、六一〇円を差引いた純益一八九万三、七九七円は遺産の法定果実として、相続分に応じ、相続人間で分配すべきであるから、本件各相続人の取り分は、申立人一郎九四万六、八九八円、相手方カヨ六三万一、二六六円、相手方章三一万五、六三三円となる。ところが相手方カヨは、上記賃貸料を全部自ら受取り、申立人一郎に三万〇、〇〇〇円を使用させただけで、他は自ら消費した。従つて、相手方カヨは申立人一郎に対し、九一万六、八九八円、相手方章に対し、三一万五、六三三円の不当利得金返還債務を負担する。そして、これは、遺産に関する相続人間の債権債務関係であるから、民法第二五九条の趣旨により本件遺産分割に組み入れて考えるべきである。

(六)  各相続分の価格

前記のとおり、本件遺産の価格は二六五万四、〇〇〇円であるからこれを前記各相続分に応じて分けると、申立人一郎一三二万七、〇〇〇円、相手方カヨ八八万四、六六七円、相手方章四四万二、三三三円となる。

ところが相手方カヨは(四)において述べたとおり、申立人一郎に対し九一万六、八九八円、相手方章に対し三一万五、六三三円合計一二三万二、五三一円の遺産に関する債務を負担するから、これを差引くと、その相続分は○になる。そして、相手方カヨの原相続分は、申立人一郎と相手方章の間において、相続分に応じ按分すべきであるから、これを計算すると、次のとおりとなる。

(イ)  申立人一郎の取得分

884,667円×1/2/(1/2+1/6) = 663,500円

(ロ)  相手方章の取得分

884,667円×1/6/(1/2+1/6) = 221,167円

そこで、これをそれぞれ申立人一郎及び相手方章の原相続分に加算すると、申立人一郎の総取得分は、一九九万〇、五〇〇円、相手方章の総取得分は六六万三、五〇〇円となる。

(七)  分割方法

以上一切の事情を考察すると、分割方法として、家事審判規則第一〇九条により、本件遺産全部を申立人一郎の所有とし、その代り、相手方章に対する前記相続分の価格相等の金銭債務を負担させるのが相当であると認められる。

よつて主文のとおり審判とする。

(家事審判官 渡辺均)

別紙 身分関係図<省略>

別紙目録

秋田市濁川字堀尾田○○番の二 山林一畝一一歩

同市同字同○○番の二 山林一畝二二歩

同市同字同○○番の三 山林五畝二一歩

同市同字同○○番の一 山林五畝一歩

同市同字同○○番 山林二四歩

同市同字同○○番 山林二畝五歩

同市同字同○○番 山林一畝五歩

同市同字同○○番の一 山林二町二反三畝四歩

同市同字同○○番の一 宅地一一坪

同市同字同○○番の一 宅地一五五坪

同市同字同○○番の二 宅地五三八坪

同市同字同○○番 宅地一八六坪(登記簿上は六畝六歩)

同市同字同○○番 宅地一三三坪

同市同字同○○番の二 宅地二八坪

同市同字同○○番 宅地二二一坪(登記簿上は七畝一一歩)

同市同字同○○番宅地二三坪

同市同字同○○番 宅地一八坪

同市同字同○○番の二 宅地四九坪

同市同字同○○番の三 宅地四五七坪

同市同字同○○番の一 宅地六三二坪(登記簿上は二反一畝二歩山林となつている)

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